今期初の京都鴨川建築塾です。今年もオンラインでの開催ですが、設計演習も増えそうなので楽しみです。インプットとアウトプットは同時にしてこそ意味がある。大変ですが楽しんで頑張りたいです。
そして1回目の講師は『横内敏人建築設計事務所』の横内先生です。課題内容発表の前に3時間ほど『建築の旅』と題したスライドを見ながら、コロナで海外へ行きにくいだろうと私達を旅に連れ出してくれました。横内先生の作品はどれも日本を感じさせる雰囲気に包まれていますが、それはなぜかという横内先生の生い立ちのようにも感じました。
先生は「偉大な先人の建物を見るだけではなく考え方まで体験を通して知りたい」と、1978年に渡米するところから旅は始まります。東京芸大を卒業後マサチューセッツ工科大(MIT)へ進み、建築の街といわれるシカゴを訪れ、サリバンやミース、ライト等の建築に触れ、ルドルフ、ムーア、ベンチューリなどのモダン建築も訪れたようです。その際に、シンプルで一見美しいように見えるモダン建築も、短い時間で風化してしまった姿が少なくなかったと言います。その中でもルイス・カーンの建築は違い、歴史を凝縮しながらも近代設備も一体にあり、建築に裏表がなく丁寧に考えられていると。カーンが影響を受けたというヨーロッパに先生の旅は進みます。
ヨーロッパではパンテオンからはじまり、フォロロマーノやカラカラ浴場、ポンペイなどを訪れ、ローマという時代がなぜ滅亡したかという、さながら世界史の授業のように話は進みます(笑)。その後、歴史と共に歩むようにロマネスク、ゴシック、ルネッサンス、バロックの時代の聖堂や人物に触れ、考え方やその背景を知ったそうです。
その後、ヨーロッパの辺境の地、北欧を訪れます。日本もアジアの辺境の地であり、似たような感覚があると言います。先生の好きなヤコブセンやウェグナー、モーゲンセン、フィン・ユールなどの家具工房や自邸を訪れますが、そこはどこも日本家屋のような佇まいだったようです。ただ、建築と家具レイアウトが暮らしに溶け込んでいてとても美しく、先生自身も今でも憧れるインテリアだったと仰っていたのが印象的でした。アスプルンドの森の墓地はあの場に立って初めて感じるストーリーのあるランドスケープだったし、ラルフ・アースキンの工房と自邸も中庭でつなぐ素敵な構成でありながら温熱もよく考えられていて暮らしが美しく見える建築だったとのこと。
最後はアジアに戻ってきて、中国、台湾、韓国の建物の特徴やその背景などのお話。そして、日本は法隆寺からはじまり、南大門や城郭建築、利休や織田信長の建築への影響などなど。浄土寺浄土堂、慈光院、高桐院、蓮華寺、頼久寺、無鄰菴などの庭園と一体となった建築の美しさや、軽井沢のレーモンドのスタジオや吉村順三の別荘、京都の俵屋旅館など近代の建物も影響を受けたと紹介。
その地域にはその地域の気候があり、歴史があり、文化がある。その背景から生まれる建築はやはり必然で、日本には日本の歴史や文化と共に育まれてきた建築がある。それは学べば学ぶほど特徴的であることがわかり、知れば知るほど残していくべきだという想いも強くなるのかもしれません。先生が解説しながら、自分ももっと勉強しないといけないと何度も口にされていたのが印象的でした。夢のような美しい写真ばかりでしたが、それらを通して先生の視野の広さや視点など、先生のすごさもあらためて感じました。
その後、課題説明で現実に連れ戻されるという(笑)。課題は一般的な街に核家族で暮らす住宅。ただ生活を取り巻く状況が大きく変化している昨今、それらを踏まえた提案が欲しいと。今まで通りではない新しいライフスタイルに住宅の考え方も進むべき時。それを踏まえて自分なりに新たな考えを提案に取り入れていきたいですね。そろそろ自分も『守破離』の『破』へ進む時かもしれない。
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