洋画家 脇田和のアトリエ山荘を見学してきました。脇田和氏と設計 吉村順三氏は東京芸術大学で共に教鞭をとっていた同い年とのことで依頼したようで、1970年に完成しています。
まず初めにパッと見た時の印象を決定づけるのはこの「く」の字型の形態でしょう。これは庭の中心にあったコブシの樹を囲うように決められたようです。ただ現在はこのコブシの樹はありませんでした。それでもこの形態が庭に対して意識を向けていることは察しが付きます。このことからも庭(自然)と暮らしのつながりを重視していたことがわかります。
ピロティーから半屋外階段を上り2階の玄関に入ります。小さいですが山荘という用途であれば必要十分です。玄関正面の開口からは先ほどの中庭を見渡すことができます。そこから広間部分につながります。つながるのですが玄関から広間は見えないようにレイアウトされています。そしてちょうど「く」の字の角度を利用した食卓テーブルがあります。単純な90度の長方形テーブルではなく、平行な辺のない五角形です。座った時に対面しないということはストレスを和らげる効果もありそうです。このテーブルからは座った人が全員庭を眺められる工夫がされています。こういったところが配慮の深さを感じます。食卓横は壁を挟んで作り付けのソファーがあり、その前に暖炉があります。暖炉の前にはゆったりとしたパーソナルチェアーと、その窓側には庭を眺められるチェアが2脚ありました。
平面的にこの大きさでこれだけ多くのくつろぎの場所をつくれていることは感動ものです。やはりモジュールというか、パーソナルスペースというか人間が心地よく感じる空間、無理なく生活できる寸法を熟知していたんだろうなと感じます。開口部の位置や大きさも一般的な住宅とは違います。それもこの建物の用途や環境、生活者の暮らすイメージから生まれてきたものなのでしょう。軒高は手が届くほど低く抑えられていますが、勾配をとった天井は解放感があります。それはこの空間が2階であることで目線が自然と下に向かうことや、天井と床が平行でない感覚であったり、そのまま軒先まで続く勾配の効果かもしれません。決して高価な材料ではなくても、むしろ庶民的な材料だからこそ自然をより感じるのかもしれません。そしてそれらの仕上材の使い方、バランスもとても心地よく感じるものでした。
ほんの1時間足らずの見学時間でしたが、この経験はこれからの自分の設計にも大きく影響してきそうな気がします。
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