古民家の解体

気が付いたら、近所で大きな古民家の解体が始まっていた。目立つ場所ではないが立派な古民家だなと、その存在は昔から知っていた。作業されてる方に挨拶がてら「これはもう壊すのですか?」と聞いたら「はい、すべて解体します。埃等でご迷惑をおかけしています。」との返事。この暑さの中での作業はかなり大変だと思うけれど、丁寧な受け答えに頭が下がる。少し話を続けていると、柱や梁に使われているケヤキの古材も以前は引き取り口もあったが、今はもう全て処分しているとのこと。確かに部材を残そうと思うと、解体処分に比べて相当手間がかかる。ただ引き受けるほうはどうせ捨てるものならと、それこそ無償に近い金額しか想定していないから、そんなにかかるならいらないというのが本音だろう。そのもの自体に価値があることはわかっていても、余程タイミングが合わない限り、そんな大きなものをストックしておける一般人はいないに等しい。

チラッと中をのぞかせてもらったが、主の柱は8寸角のケヤキで6m以上ありそうだ。おそらく築100年程度は経っていると思われる。福井Ⅲ型といわれる形式の構成だ。昔はこの8帖4間の襖をあけ放って32帖の大広間として集会や法事、結婚式や葬式の会場として日常から使われていた。ただ最近はそういう行事ごとも集会場やその他の施設を使うようになり、家で近所の人が寄り合う生活スタイルではなくなってきた。そうなるとこの32帖+オイエの約40帖の広間は利用価値のないものとなってしまった。しかもこの広間は両縁側とそれぞれの庭を設えてあり、実際の居住空間は居心地の良くないところに固められている。これでは現代の家族中心の考え方には程遠いものだ。

そうなると大々的に改修するか建て替えるかという選択になる。おそらく費用はどちらも似たような総額になるだろう。環境や材料的にも、完全に解体しかないわけでもないと思われる。そうなってくるとその選択の判断材料として設計者の提案力も大きく影響するだろうと思う。どちらの選択が良いとか悪いとかという問題ではなくて、設計者の責任はそれだけ大きいということ。

残すにしても、建て替えるにしても、当事者にとっては心身的に大変な労力が必要だ。この先安全に工事が進み、新しく楽しい生活がスタートすることを期待しています。

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