美しい建物の要素とは

自宅から徒歩5分ほどのところに「黒龍」という造り酒屋さんがあります。お酒の好きな人だと、「石田屋」とか「仁左衛門」という方が通じるかもしれません。

この酒屋さんの古い蔵元の建物がとても味わい深く好きなのです。私が通っていた小学校が近くにあり、子供もこの建物の前を通って通っています。詳しくはわからないのですが、おそらく150年以上は経っているのではないかと思います。軒の深い低い切妻平入、全体を覆う面格子や出格子、木部の深い色調と黒漆喰の壁、造り酒屋のシンボルでもある杉玉と屋号。どれもがおそらく創業当時から大きく変わってはいないでしょう。それでも見苦しくなるどころか美しくさえ見えるのはなぜなのでしょう。

この町家特有の形式は、地域性や時代性で異なる部分はあるものの日本全国で見ることができます。ということは、これは日本の住宅建築におけるひとつの完成形なのではないかと思っています。もちろんこの規模の建物となると庶民では用意できないような資金を投じて建設されたでしょうし、一般市民がこの規模の住宅を維持していくのは経済的に難しいでしょう。ただ美しいと感じるエッセンスがあるはずです。それはどこにあるのかというと、私が思うのは、①建物の重心が低いため近隣から見て控え目であること、②本物の素材(自然の素材)で作られているため経年美が表れていること、③木構造を間取りと同時に考えているため内外共に柱・梁が一定の経済スパンであること。これは耐震性や間取りの可変性、メンテナンス性にもつながります。

大きな要素では以上の3点が考えられるのかなと思っています。これを踏まえて現代の生活環境を考慮すると、もしかすると100年経ってもまだ残したいと思える建物ができるのかもしれません。そうなるとうれしいですよね。

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